外傷性刺青(がいしょうせいしせい)とは、皮膚が損傷を負った時に、異物が皮膚内に残ったまま傷が治ってしまい、そのゴミ汚れが浮き出て見えてしまう現象です。
皮膚の中に色素が残る刺青(入れ墨)と同じような現象が起きることから「外傷性刺青」と名が付けられています。他にも「外傷性タトゥー」とも呼ばれたりします。
今回は外傷性刺青のよくある原因や治療について解説。
外傷性刺青の原因と特徴
傷を負った後に何らかの汚れ、ゴミ、砂、土などの異物が真皮層などの皮膚の深いところに残ったまま治ってしまうことが原因です。
外傷後に患部の汚れをきちんと洗い流さないまま傷が治ってしまうと発生します。
すり傷やきり傷などに対する正しい処置の認識が低いことも原因の一つで、特に子供の時に起こすことが多いです。
また、あまりにも外傷がひどい場合に、異物の除去が遅れたり、その異物に気づくことができなかった場合でも起こります。
多い事例
- 運動場、グラウンドで転んで傷ができ、その砂汚れをしっかりと洗い流さないまま治ると起こる可能性があります。
- 登山、アウトドアなどで、外傷後に汚れを洗い流すことができなかったために、やむを得なくできてしまうことがあります。
- キズパワーパッドなどを使った湿潤療法(モイストヒーリング)が良いと思って、外傷後に傷口を洗い流さないまま患部に傷パッドを貼ったりすると、汚れが残ったままになることも。これは、「きちんと洗い流す」という傷に対する適切な知識が不足していることがあげられます。
- 交通事故などで体をアスファルトに強く打ち付けた場合、アスファルトの色素、道路の砂や細かな石などが皮膚に残ってしまうことがあります。バイク事故が多いです。
- 子供が皮膚に刺した鉛筆やシャープペンの芯が肌に残ってしまうこともあります。
筆者が経験した話し
かつて筆者が勤めていた皮膚科に訪れた男子中学生(サッカー部)の話しですが、練習中に転び、顧問の先生が傷を洗い流して処置することを許してくれなかったため、皮膚内に汚れが残ってしまったという事例がありました。
先生からは、「そのくらいの怪我ならツバで舐めればすぐ治る」、「男のくせに気にするな」みたいなこといわれたようで、結局は何も治療せずカサブタとなり、最終的に傷が治ったときには皮膚内に土や砂が残ったままになったというのです。
考え方が昭和というか古いタイプの先生だったみたいですが、「男らしさ」みたいなものがいろいろ難しくしてしまうみたいですね。
免疫反応でケロイドになることも
皮膚に残った異物によって免疫反応を引き起こし、しこりのようになることも。
体質的な条件がそろえばケロイド、肥厚性瘢痕や成熟瘢痕を引き起こし、傷跡がひどくなっていくことがあります。
発生しやすい部位
外傷性刺青は、転んで怪我をしやすい手、腕、脚に発生しやすいといえます。
外傷後、汚れを洗い流さない、取り除かないままにしていると、全身どこにでも発生する可能性があります。
自然に治るのか?
外傷性刺青は自然消失することはありません。真皮層に存在するマクロファージは異物を処理する働きがありますが、異物が大きすぎるので自然には治らないのです。
主な治療方法は?
- レーザー治療
- 手術
- 植皮(皮膚移植)
外傷性刺青はレーザー治療で薄くなる
外傷性刺青は、Qスイッチレーザーで改善する可能性があります。
Qスイッチ・レーザーとは、高い出力のレーザー光をナノ秒単位という劇的に短い時間で照射できるレーザーをいいます。
照射時間がナノ秒という一瞬であるため、高い出力でも皮膚へのダメージを軽減することができるメリットがあります。
そして、Qスイッチ・レーザーには3つの種類があります。
Qスイッチ・ルビーレーザー
694nm(ナノメートル)のレーザー。
この波長は黒や青などの濃い色によく反応し、血管などの組織に対してはダメージが少ない波長です。
多くの色素性病変に対して広く使用されるタイプのレーザーです。
Qスイッチ・アレキサンドライトレーザー
755nmのレーザーです。
ルビーレーザーと比較してやや波長が長く、皮膚の深部にまで吸収されます。黒や青などの濃い色に反応するレーザーです。
この波長はレーザー脱毛でも使用されます。脱毛で使われるアレキサンドライトレーザーはQスイッチではなくロングパルスという(照射時間が長い)タイプ。
Qスイッチ・ヤグレーザー
基本波1064nm(ナノメートル)と半分の532nmの2つの波長をもつレーザーです。
1064nmは波長が長いため、皮膚の深い層にまで作用させることができます。
また、半波長532nmの場合は浅いところの色素性病変に効果を発揮します。
レーザー治療について
- 外傷性刺青に対するレーザー治療は保険適用になります。
- 皮膚の深い部分の色素沈着の場合、何度もレーザー治療が必要になります。
- 繰り返しレーザー治療を行っても、思うように効果を得られないこともあります。
- レーザーでは消えにくい色素もあります。主に薄い色。白、緑、黄色など。
レーザー治療で色素が薄くなっていく可能性はあるのですが、元の綺麗な状態の皮膚に戻すのは困難なことが多いです。
ひどい場合は手術
皮膚内の異物は手術によって取り除くこともできます。ただし、手術すると傷跡が残ってしまうのが難点です。
肌質によっては手術による傷跡のほうが目立ってしまうこともありえます。ケロイド体質の人は止めたほうがいいでしょう。
なお、傷跡を早くキレイに治すにはトラニラストの服用やヒルドイド(ヘパリン類似物質)の外用が効果的です。
トラニラストはコラーゲンを過剰に作り出してしまうサイトカインを抑制し、傷跡が盛り上がってしまう現象を予防します。
一方のヒルドイドは術後のケロイド、肥厚性瘢痕の改善を促す働きが確認されています。
植皮(皮膚移植)
外傷による傷跡や色素沈着がひどい場合は、植皮(皮膚移植)という方法もあります。
自分の体の他の部位から皮膚を採取して、目的の部分に移植する方法です。表皮だけではなく、真皮などを含めた移植となります。
皮膚移植は、外傷性刺青の治療というよりも、傷跡が広範囲でひどい場合に行うのが一般的です。
ただし、皮膚移植でも傷跡が残ったり、皮膚が定着するまでのダウンタイムが長くなる欠点があります。
下手に扱うと逆に汚くなる
レーザーや皮膚移植などいろいろ治療がある外傷性タトゥーですが、いろいろ治療しすぎてかえって傷跡が目立ってしまうこともあります。
皮膚科医は下手に扱うよりも気にせずに生活していくことをアドバイスすることが多いです。
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