化膿したお尻のニキビが治りにくい場合や繰り返し発生する場合、それはニキビではなく慢性膿皮症(まんせいのうひしょう)という症状である可能性があります。
その症状は通常のニキビとは違い、数か月~年単位にかけて症状が続くことがあり、放っておくと手術が必要になることがあります。一般的なニキビとは違うと感じたら早めに皮膚科を受診して治療を行わなければいけません。
今回の記事は、慢性膿皮症の原因やニキビとの違い、皮膚科での治療法などについて詳しく解説していきます。
慢性膿皮症とは?
慢性膿皮症(まんせいのうひしょう)とは、病原性が強い細菌感染によって強い腫れが続く慢性的な皮膚疾患です。(画像参考)
顔や頭部、背中、胸、脚、ワキなどにも発生することがありますが、多くはお尻に発生します。
お尻に現われたものは臀部慢性膿皮症(でんぶまんせいのうひしょう)とも呼ばれ、女性よりも男性に発生しやすい傾向があります。
症状の原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌などで、それらは病原性が強いため皮膚の深い部分で増加すると、通常のニキビとは違うレベルで強い炎症をもたらします。
一般的なニキビよりも腫れや痛みが長引くのが特徴で、数か月から年単位で症状が続きます。何度も膿がでてきて出血することもあります。当然、炎症による色素沈着もひどくなり、画像のように皮膚が強く黒ずんでしまうようになります。
そして、治療が遅れると複数発生して、腫れと腫れがつながって拡大していくことがあります。その場合は治療も長期になります。
慢性膿皮症の原因
慢性膿皮症の原因は、最初はなんらかの皮膚感染症が原因で発生し、それが悪化して広がっていくことで発生します。
外傷や刺激
慢性膿皮症は、単にすり傷や切り傷などの外傷や刺激などにより、その傷から細菌感染を起こし、それから悪化していくことで発生することがあります。
毛嚢炎(毛包炎)
毛嚢炎(もうのうえん)は、毛穴内部で主に表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌による感染によって発生する皮膚感染症です。
毛嚢炎とニキビは似ていますが、違いはニキビの場合はふさがった毛穴内部でアクネ菌という細菌が増加することで発生しますが、毛嚢炎は毛穴のふさがりに関係なく黄色ブドウ球菌による細菌感染によって発生します。
毛嚢炎は毛抜きやカミソリなどが原因で毛穴が傷つくことで発生することが多いですが、お尻は刺激を受けやすいので毛嚢炎を起こしやすいといえます。また、ステロイド薬などを使うことで発生することもあります。
おでき(せつ)
おでき(せつ)は、皮膚の深い部分で黄色ブドウ球菌が感染することで強く腫れる皮膚病です。たくさんの膿が発生して、とても強く腫れ上がります。おできが悪化して慢性膿皮症へとつながることがあります。
粉瘤(ふんりゅう)
粉瘤(ふんりゅう)という症状が進行して感染症を起こすと、慢性膿皮症につながることがあります。粉瘤とは、体質や外傷などによって局所的に皮膚の構造に異変が起こり、皮膚内部で古い角質(垢)が溜まってしまう皮膚病変です。
初期の見た目は一般的なニキビのように見えることもありますが、しだいに拡大していき、しこりのようになっていきます。そして、最終的には細菌感染を起こしてひどく炎症を起こしてしまうことがあります。
この症状は自然に治ることはないため、早く判別して治療を行ったほうが良いとされます。
化膿性汗腺炎
化膿性汗腺炎(かのうせいかんせんえん)は、主にアポクリン汗腺(汗を分泌するところ)が多い部分に発生しやすい化膿性の皮膚病です。
アポクリン汗腺は、タンパク質や脂質を含む汗を分泌し、ワキガの原因ともなる汗腺ですが、栄養が良いため微生物が増えやすく、それによって細菌感染を起こしやすいようです。
それが原因で慢性膿皮症となってしまうことがあります。また、アポクリン汗腺が多い部分は刺激を受けやすい部分であることも炎症が慢性化しやすい要因の一つです。
痔ろう(じろう)
最も多い原因は、痔ろう(じろう)という症状です。痔ろうは、肛門の周辺に穴ができてそこから膿が出る疾患です。肛門部に膿のトンネルができてそこから細菌感染を起こすことで慢性膿皮症とつながる原因となります。
慢性膿皮症の64%に痔ろうを併発しているという報告があります。ダウンタウンの浜田さんがかかっていることで知られています。
ニキビとの違い
ニキビはアクネ菌という細菌がふさがった毛穴で増加し、免疫反応を起こすことで発生しますが、慢性膿皮症は皮膚深部で黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などによる感染によって発生します。
基本的に症状の発生プロセスや原因となる細菌が違うのですが、ニキビが悪化して化膿したりすると黄色ブドウ球菌が影響することがあり、それがきっかけて炎症が続いて慢性膿皮症となってしまう可能性もあります。
刺激を受けやすいことが慢性化する原因
慢性膿皮症はお尻にできやすいのですが、慢性化しやすい原因としてはお尻が刺激を受けやすいことや、蒸れやすいことなどがあげられます。座ったときの刺激に注意しなければいけません。
免疫低下によって慢性化する
免疫力が下がっている人ほど、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などの感染症を起こしやすく、さらに治りにくい傾向があります。例えば、糖尿病やエイズなどで免疫不全に陥ると感染症にかかりやすく、慢性的な皮膚炎の原因になります。
また、ステロイド外用薬などを使用していると、毛嚢炎などの皮膚感染症にかかりやすくなります。
慢性膿皮症の治療法
慢性膿皮症の治療は、抗生物質の服用を中心に、悪化している時は手術が行われることがあります。悪化するほど回復が長期に及ぶため早い段階で病院を受診するのが理想です。
抗生物質の内服
抗生物質は、慢性膿皮症の原因となる黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などに対して高い抗菌作用を示し、細菌を減少させます。軽症や重度に関わらず抗生物質の内服薬で治療をしていきます。
抗生物質の飲み薬は主に以下のような種類があります。
- ルリッド錠(ロキシスロマイシン)
- クラリスロマイシン(クラリス)
- ミノマイシン(ミノサイクリン)
- ビブラマイシン(ドキシサイクリン)
- セフゾン(セフジニル)
- ファロム(ファロペネム)
- バナン(セフポドキシム)
処方された薬を毎日飲み忘れることなく服用し続けて、集中的に病原細菌を減少させていきます。中途半端な治療にならないようにしたいところです。
そして、抗生物質には下痢や腹痛などの副作用が現われやすくなる問題があります。胃腸が弱い人ほどそれらの副作用が続く傾向がありますが、下痢が長引く場合はそういった副作用が少ない抗生物質に変更したりします。(下痢止めの薬が使用されることもあります)。
また、抗生物質には長く使い続けるほど耐性菌(薬が効かなくなる菌)を生じる問題があります。お薬が効きにくい場合は抗生物質を変更したりします。(抗生剤を使わなければこの薬は治りません)。
なお、痔瘻(じろう)や糖尿病などがある場合は、その治療を同時に行います。
抗炎症薬の服用も効果がある
皮膚科では炎症を抑えるためのブルフェン(イブプロフェン)やロキソニン(ロキソプロフェン)などの消炎作用がある内服薬が処方されることがあります。
イブプロフェンは市販の風邪薬などにもよく配合されている成分で、炎症や発熱を引き起こすプロスタグランジンという物質を抑制して、より早く炎症や腫れを治す効果があります。ロキソニンにおいても同じような働きがあります。
塗り薬は効きにくい
慢性膿皮症は皮膚の深い部分で強い感染を起こしているため、抗生物質の塗り薬などはあまり効果がありません。飲み薬のほうがはっきりとした効果があります。
手術が行われることも多い
症状が軽い場合は抗生物質だけで治る可能性がありますが、症状が悪化している場合は手術による膿の排出と皮膚摘出が行われます。
細菌感染が皮膚深部に及ぶことや、炎症が続いたことで皮膚が壊死していることが回復が難しくなる原因になるため、破壊が進んだ皮膚を取り除く必要があるのです。
手術は以下のような方法があります。
切除縫合法
切除縫合法は、腫れが続いて壊死した皮膚を切除し、膿を洗い流して縫い合わせる方法でず。軽度の慢性膿皮症で患部が小さい時によく使用されます。当然、麻酔をして行います。線上の傷痕が残ります。
くり抜き法
くり抜き法とは、専用の器具で患部を円状にくり抜く方法です。長く続いた炎症によって壊死した皮膚を皮下組織まで繰り返しくり抜いていきます。(皮下組織とは皮下脂肪などがある層です)。
くり抜き法はダウンタイムが長く、治るまで約1ヶ月~2ヶ月くらいかかります。また、治った後の見た目はデコボコ感が強く現われます。
皮膚移植
まれなケースですが皮膚移植が行われることがあります。病変部を切除して、同時に事前に採取した皮膚の移植を行います。
移植するための正常な皮膚組織を採取する必要があるため、その部分まで傷痕が残ってしまう欠点があります。また、皮膚が定着するまでダウンタイムも長くかかる欠点があります。皮膚をつなぎ合わせた部分に傷痕が残ります。
炎症後色素沈着を治すには?
慢性膿皮症が長く続いた場合、完治しても炎症による色素沈着(黒ずんだシミ)は残ってしまいます。その色素沈着の改善についてですが、結論からいえば劇的な改善は難しいです。
色素沈着は表皮内で作られるメラニン色素によるものですが、強い炎症が続くと表皮層と真皮層の間に存在する基底膜(きていまく)という部分が炎症によって破壊され、表皮で作られたメラニンが真皮層に入り込んでしまうようになります。
真皮層は表皮のようなターンオーバーが行われていないので、シミの排出がとても遅いのです。
そして、真皮に落ち込んだメラニン色素はメラノファージという細胞が処理するのですが、メラノファージは活動性が低いため、メラニンを食べてそのまま長く留まってしまいます。それも真皮の色素沈着が治りにくい原因です。
炎症後色素沈着はレーザー治療で薄くできる可能性もありますが、慢性膿皮症のような長く続いた炎症による色素沈着を高いレベルで薄くするのは難しいのが現状です。
この症状をよりキレイに治したい場合は、早くニキビとの違いを認識してできるだけ早期に治療を行う必要があります。
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