ニキビ治療におけるピルが男性ホルモンを抑制する仕組み

薬を飲む画像 ピルとは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類の女性ホルモンがバランス良く配合された女性ホルモン剤をいいます。

ピルには、高用量ピル、中用量ピル、低用量ピルなどがありますが、それらはエストロゲンの量によって分けられています。現在ではピルというと副作用が少ない低用量ピルが一般的に使用されます。

ピルは一般的に経口避妊薬として用いられますが、ピルが皮脂分泌を促す男性ホルモンやプロゲステロンなどの働きを抑制することから、にきび治療にも使用されることがあります。

では、ピルはどのようなメカニズムで男性ホルモンを抑制し、ニキビ肌を改善に導くのでしょうか。詳しく解説していきます。

女性ホルモンの働きと生理周期による変化

ピルの働きを理解するには、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンの働きや分泌される仕組みを理解する必要があります。

その2種類の女性ホルモンは月経周期によって分泌量が変化し、それによって女性の身体に大きな変化をもたらします。画像グラフを参考にして下さい。

女性ホルモンの変化と生理周期

卵胞期

月経(生理)が終わって排卵期までの約7~10日間は卵胞期といわれる時期で、この卵胞期にはエストロゲンの分泌が増加します。

卵胞期はエストロゲンの影響で皮脂分泌が抑えられ肌トラブルが少なくなります。肌質によっては乾燥しやすくなることもあります。

黄体期

排卵後から生理までの約2週間は黄体期といわれる時期で、この黄体期にはプロゲステロンの分泌が増加します。

黄体期はプロゲステロンの影響で肌が脂っぽくなり、ニキビ肌荒れを起こしやすくなります。また、メラニンが作られやすくなり、シミが悪化しやすくなる時期だとされています。

女性ホルモンをコントロールする性腺刺激ホルモン

性腺刺激ホルモンと女性ホルモン エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンは、脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンによってコントロールされています。

性腺刺激ホルモンには、黄体形成ホルモン(LH)と、卵胞刺激ホルモン(FSH)の2種類があり、血液中の女性ホルモン濃度の変化によってそれらの分泌量も変化します。

月経(生理)が終わると、脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され、卵巣に作用して卵胞の成長を促します。

そして、発育した卵胞からエストロゲンが分泌されますが、エストロゲン量がピークに達すると脳下垂体から黄体形成ホルモン(LH)が分泌され、成熟した卵胞が刺激を受けて中の卵子が飛び出します。これが排卵です。

排卵後、卵子が出ていった卵胞は黄体というものに変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン)を多量に分泌し始めます。

プロゲステロン(黄体ホルモン)は、子宮内膜に働きかけて受精卵が着床できるように準備をしますが、受精が成立しないとプロゲステロンとエストロゲンは減少し、子宮内膜もはがれて経血となって外に出ていきます。これが月経(生理)です。

妊娠が成立しなければ、このような生理といわれる現象が約1か月おきに起こるのですが、ピルはこういった様々な性ホルモンの働きを意図的にコントロールすることで女性特有の様々な諸症状もコントロールすることができます。

ピルがニキビに効果がある理由

ピルがニキビに効く仕組みを大きく以下の3つに分けて解説します。

  • 卵巣由来の男性ホルモンの抑制
  • 自然に分泌されるプロゲステロンの働きを抑える
  • エストロゲンそのものの男性ホルモンの抑制

ピルが男性ホルモンを抑えるメカニズム

テストステロン(男性ホルモン) ピルには、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンが微量配合されています。ピルを服用していると、脳は身体に2種類の女性ホルモンが十分にあると認識し、性腺刺激ホルモンを分泌しなくなります。

そして、その性腺刺激ホルモンの分泌を抑えることで卵巣由来の男性ホルモン(テストステロン)の分泌を抑制することができます。

女性においても卵巣や副腎でテストステロン(男性ホルモン)が作られており、男性の約5~20%ほどの男性ホルモンが分泌されているとされますが、性腺刺激ホルモンを抑制することで卵巣で作られるテストステロンの産生を抑制することができるのです。

男性ホルモンは、皮脂腺に作用して皮脂分泌を促す作用や角化異常を起こして毛穴を詰まらせやすくする作用があります。

思春期にニキビができやすくなるのも男性ホルモンなどの性ホルモンが増加することが主な要因ですが、それを抑制することでニキビの予防・改善が期待できます。これがピルがニキビを抑制する効果がある理由の一つです。

簡単なまとめ

1ピルによって女性ホルモンを補充する。

2脳が女性ホルモンが体内に十分にあると認識し、性腺刺激ホルモンを分泌しなくなる。

3性腺刺激ホルモンが抑制されることで卵巣で作られている男性ホルモンも抑制され、ニキビ予防や改善につながる。

低用量ピルはプロゲステロンの働きを抑制する

プロゲステロンとテストステロン 排卵期後から生理までの約2週間を黄体期といい、この時期を一般に「生理前」といったりしますが、一般に生理前は肌が脂っぽくなって吹き出物ができやすくなります。

これは女性ホルモンの一つであるプロゲステロン(黄体ホルモン)が増加することが主な要因だと考えられています。

プロゲステロンは男性ホルモンと似た作用があり、皮脂腺に作用して皮脂分泌を促す働きがあるとされます。プロゲステロンも男性ホルモンと同じようにコレステロールから作られるステロイドホルモンであり、構造的に似ているため作用においても部分的に似た作用があるのだと考えられます。

そして、ピルを服用することで身体に十分な量の女性ホルモンがあると脳が認識し、性腺刺激ホルモンを分泌しなくなりますが、それによってプロゲステロンの自然な分泌がなくなります。

そして、体内にはピルに含まれる一定の女性ホルモン量(エストロゲンとプロゲステロン)になるのですが、そのピルに含まれるプロゲステロンの量は自然に分泌される量よりも少なく、さらにニキビ治療に使用される低用量ピルは男性ホルモン様作用が少ないので、生理前のプロゲステロンによる皮脂増加→ニキビ多発という現象を改善することができます。

簡単なまとめ

1ピルによってエストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンを補充する。

2脳が女性ホルモンが十分にあると認識し、性腺刺激ホルモンが抑制される。

3エストロゲンやプロゲステロンの自然な分泌が抑えられ、体内にはピルに含まれる一定の女性ホルモン量になる。

4ピルに含まれるプロゲステロン量は自然に分泌される量よりも少なく、さらにニキビ治療に使用される低用量ピルのプロゲステロンは男性ホルモン様作用が少ないので、全体的にプロゲステロンの影響を抑えることができる。

5プロゲステロンの作用を抑制することで皮脂や角化異常を抑え、にきび予防・改善につながる。

低用量ピルに含まれるエストロゲンが男性ホルモンを抑制する

日本で使用されているピルには、エチニルエストラジオール(EE)というエストロゲン剤が配合されています。

そのエチニルエストラジオールは、性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone binding globulin)という性ホルモンと結合するたんぱく質を増加させる働きがあります。

そして、その性ホルモン結合グロブリンが男性ホルモン(テストステロン)と結合することで血中男性ホルモンを減少させることができます。

ちなみに、エチニルエストラジオールは抗男性ホルモン薬として男性における前立腺がんの治療に使用されることがあります。

簡単なまとめ

1ピルに含まれるエチニルエストラジオールが血中の性ホルモン結合グロブリンというたんぱく質を増加させる。

2性ホルモン結合グロブリンが男性ホルモンと結合し、血液中の男性ホルモンが減少する。

3男性ホルモンが抑制されることで皮脂分泌が抑えられ、ニキビが改善する。

ニキビ治療に使用される低用量ピル

薬を飲む画像 ニキビ治療で使用されるピルは一般的に低用量ピルというエストロゲン量が少ないピルが使用されます。エストロゲンが少ないピルは副作用を抑えることができるためです。

そして、エストロゲンと一緒に配合されるプロゲステロンは世代によっていくつかの種類に分けられますが、ニキビ治療には必ず男性ホルモン様作用が少ないプロゲステロンが使用されます。

ニキビ治療に用いられる低用量ピルは「マーベロン」や、マーベロンのジェネリック医薬品である「ファボワール」などが有名です。他にも、超低用量ピルと位置づけられてるヤーズというピルもあります。

マーベロン(第三世代・低用量ピル)

マーベロン(ピル)の画像 マーベロンは、エチニルエストラジオールというエストロゲン剤(30μg)と、デソゲストレルというプロゲステロン剤を配合した第3世代低用量ピルです。すべての錠剤に同じ量の女性ホルモンが含まれている一相性ピルです。

マーベロンに使用されるデソゲストレルというプロゲステロン剤は男性ホルモンに似た作用がとても弱いのでニキビ治療に対してよく使用されます。

21日タイプと7日間の偽薬を含んだ28日タイプがありますが効果は一緒です。ニキビ治療としてはピルは保険適応とされていないので自由診療となります。料金は1シート2500円前後が目安です。

なお、マーベロンのジェネリック医薬品にファボワールという製品があります。効能も同じです。ファボワールのほうが安く購入することができます。

ヤーズ(第四世代・低用量ピル)

ヤーズ(超低用量ピル)の画像 ヤーズは、エチニルエストラジオールというエストロゲン剤(20μg)と、ドロスピレノンというプロゲステロン剤を配合した第4世代低用量ピルです。一相性ピルです。

エストロゲンが少ない超低用量ピルで、エチニルエストラジオール(エストロゲン剤)が20μg(マイクログラム)に抑えれています。マーベロンの30μgなどと比較するとエストロゲンが3分の2の量に抑えられているので、特に副作用が少ないとされています。

そして、配合されるドロスピレノンというプロゲステロン剤はとても男性ホルモン様作用が弱いのでニキビ治療に適しています。

ヤーズは、ニキビ治療のみの治療では保険は効きませんが、同時に月経困難症などがあれば保険適応になります。

ヤーズは28日タイプのみです。24日分と偽薬4日の計28日。

トリキュラー(第二世代・低用量ピル)

トリキュラー(ピル)の写真 トリキュラーは、エチニルエストラジオール30~40μg(エストロゲン剤)と、レボノルゲストレルというプロゲステロン剤を組み合わせた第2世代低用量ピルです。

レボノルゲストレルというプロゲステロン剤は男性ホルモン様作用が強いので、それだけ配合量が抑えられています。そして、総合的に言えば、マーベロンやヤーズなどと比較すると男性ホルモン様作用は高いピルとされます。

男性ホルモン活性だけでいえばニキビ治療には適してないといえますが、血栓症(血が固まりやすくなる症状)を起こしにくいメリットがあります。

トリキュラーは「三相性ピル」といわれる自然な女性ホルモンの分泌レベルに合わせて3段階にホルモン量が変化するピルです。時期によって3つに錠剤が色分けされています。

トリキュラーは21日タイプと、7日分のプラセボ(偽薬)を含んだ28日タイプがあります。

なお、トリキュラーと同じ成分を配合した製品にアンジュというお薬があります。また、トリキュラーの後発品にラベルフィーユという製品があります。どれも基本的には同じ効能を得られます。